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早期に手術を勧められた顔面神経麻痺症例 29歳 女性
1ヶ月半前に右顔面神経麻痺が発症した。その3日前にインフルエンザにかかり40度の高熱が出た。顔面神経麻痺発症前日には耳が痛くなり耳鼻科を受診し外耳炎と言われた。その翌朝起きたら右の顔が動かなくなっていた。すぐに総合病院の神経内科を受診し顔面神経麻痺と言われたが、そこではベル麻痺かハント症候群か判断がつかないと言われた。治療はステロイドの服薬と抗生物質の点滴とビタミン剤をもらい3週間通院した。しかし顔に全く変化が見られなかった為自身の判断で転院をした。そこで改めて電気生理学的検査(ENoG)や柳原顔面神経麻痺評価法による判定を受けた。顔面神経麻痺発症1ヶ月時点でのENoG値は13%、評価スコアは4点であった。ここでもベル麻痺かハント症候群か診断は出来ないと言われたが、インフルエンザにかかり高熱が出たことと顔面神経麻痺とは無関係と言われた。治療はステロイドの点滴を10日間おこなった。他にビタミン剤と血流を良くする薬を服用しているが顔面神経麻痺症状に格別な変化は全く見られなかった。その為に西洋医学以外で顔面神経麻痺の治療をしてくれる治療所を探して、経絡を用いた東洋医学的な手技療法を行う治療所に通い始めた。この頃に当院へ顔面神経麻痺に対する問い合わせのメールをいただいたが、しばらく経絡的な治療を続けてみると言う内容の返信をいただいた。その後2週間ほど経って当院へ来院された。
■診察
[ 経過 ]
( 初診 )
顔面神経麻痺発症から50日経ている。まず望診上で右目の周囲がまったく固まったように動かないことに高度の麻痺を予想させた。柳原40点評価法のスコアは4点で、発症50日経っての4点は分類上では完全麻痺の範疇に入り予後不良の点数である。味覚異常有り(味がわからない)。アブミ骨筋性の耳鳴りがある。病院でも手術をするなら出来るだけ早い時期にすることを勧められている。しかし手術による成功率のデータ等について担当医師に質問すると「示せない」と言われたようだ。私も手術という選択肢があることはお話した。しかし結局の所、ご本人は手術にリスクを伴うことから手術という選択肢は選ばれなかった。
当院での治療は鍼と遠絡療法を併用しておこなった。治療後の注意点として眼を閉じることができないためサングラスや眼帯による眼の保護と、顔を直接寒風にさらさないようマフラー、マスクの着用を伝えた。また共同運動が出るのを防ぐための伸張マッサージなどの指導をおこなった。兎に角若い女性の顔の事だけに、治療する側としても顔に症状を残したくない気持ちが強かった。以後は週2回の治療に集中して取り組むこととなった。
( 8回目 )
当院での治療開始後3週間めに顔面神経麻痺40点評価法のスコアが12点となる。
( 17回目 )
発症後3ヶ月半。当院での治療開始後50日目。スコア16点。アメの甘みがわかるようになった。当初は口中に固まりが入っている感じだけだった。鼻唇溝が左右対称に近くなってきた(自他覚ともに確認)。
( 24回目 )
発症後4ヶ月。当院での治療開始後2ヶ月が過ぎ、まぶたの動きが出てきた。
( 34回目 )
発症後5ヶ月。スコア18点。仰臥位での閉眼が可能となった。しかし瞬き時の口角挙上とい
う病的共同運動が出てきた。
この頃から筋短縮による鼻唇口の強調や頬筋の膨隆、病的共同運動、眼瞼部の痙攣などの後遺症と、神経再生による治癒方向との不安定状態が数ヶ月続いた。この間発症後8ヶ月ぶりに美容院に行かれている。顔面神経麻痺症状になられた方は誰もが美容院に行くことに相当な勇気を必要とする。
( 76回目 )
発症後10ヶ月。首を前傾させると前頚部に痙攣が出現する。1ヶ月半間隔で通院している病院で顔面神経麻痺スコアが22点となった。当院でもスコアを点けているが客観的に計れるデータである。
( 85回目 )
発症後12ヶ月。当院での治療開始から10ヶ月半がたった。病院で計った顔面神経麻痺のスコアが26点となった。片目つぶりが少しできるようになったとうれしそうにお話をされた。顔面神経麻痺に罹患された方にとって、40点評価法の項目の中でも片目つぶりは最も難しい項目と言える。安静時の表情だけで見ると、当院へ通院されている30点以上のスコアの方達以上に良い状態である。ここまで来れば日常生活や社会生活上はさほど気にせず過ごせる状態だ。しかしまだまだ改善したい項目も多くある。症状的にも決して固定しているわけではないので改善すると予想できる。しかし当院に週2回1年近く通院されてきたことは、時間的にも金銭的にも大変な負担を強いてきたことであり、以後は月2回程度で推移を見ていくこととした。
■考察
この患者の場合、発症3週間時点でEN0G値が13パーセント。顔面神経麻痺評価法によるスコアが4点ということで、病院の医師から早い時期での手術を進められている。顔面神経麻痺発症以来1年が経った現在、手術をしなかった選択肢が正しかったのか人によって見方は違うだろう。治療を担当してきた者が言うのもおかしいが、手術をしなくて良かったのではないだろうか。顔面神経麻痺手術後の副産物とも言える後遺症を訴えて来院される方がこの1年でも4名来院されている。顔面神経麻痺治療にとって鍼灸治療および遠絡療法は欠かせない治療法であることは間違いない。