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顔面神経麻痺 右不全ハント症候群 42歳 女性

40日ほど前から右耳周囲に痛みが出てきて、それが徐々にひどくなってきたため耳鼻科を受診した。翌朝歯磨き時にうがいをしていて水がピューと口からこぼれる状態になったがとりあえず仕事に行った。職場の同僚に心配されて、昼に内科を受診して顔面神経麻痺と言われて紹介状をもらい大きな病院の救急外来を受診した。担当医が耳鼻科の医師でMRIを撮り採血をした。医師からは「帯状疱疹によるヘルペス」と言われ翌日入院した。病院ではステロイドの点滴と抗ウィルスによる治療を10日間ほどおこなった。担当医からは少し難聴になっていると言われた。10日後の退院時の説明では診断名は右不全ハント症候群とされ、通電検査(ENOG)4.9%であった。また手術による治療についても説明がなされた。顔面神経麻痺発症から1か月経過してもまったく改善が見られないため、当院をネットで検索して来院された。

 

<初診時>顔面神経麻痺発症から1か月と5日経過

顔面神経麻痺評価テスト8点 閉眼不可で歩行時にフワフワとしためまいのような感じがあり、下を向くとグワーンとしためまい(眩暈)が現れる。こういった眩暈やフラツキを伴うタイプは重度で後遺症状が残るケースが多い.

 

<その後の経過>1年間の治療期間があり、経過の概略を記載する

 

<10回目>当院初診時から1か月が経過。 顔面神経麻痺発症から2か月が経過

顔面神経麻痺評価点数12点。仰臥位では閉眼可能となった

 

<18回目>当院初診時から2か月が経過。 顔面神経麻痺発症から3か月が経過

顔面神経麻痺評価点数16点。下を向くとめまい(眩暈)が出るが、歩行時のフラフラは無くなった。子供の時からいつも顔を含めて全身に力が入っていると言う癖がある。また就寝時も歯を食いしばって寝ているとのお話である。この癖は表情筋の共同運動を助長させるので、リラックスして力を抜くことを意識するよう伝えた。顔の力さえ抜けば顔面神経麻痺とは見えないほどに良くなっている。

 

<27回目>当院初診時から3か月が経過。 顔面神経麻痺発症から4か月が経過

顔面神経麻痺評価点数20点。起床時に目が細くなっている。本人曰く「頬が張った感じがあり気持ちが悪い。食べにくくなっている。右口角の隙間が開くようになりよだれが落ちそうになる」。

 

<36回目>当院初診時から4か月が経過。 顔面神経麻痺発症から5か月が経過

顔面神経麻痺評価点数22点。瞬き時に口角が動く共同運動が出ている。あいかわらず顔と体に力が入り就寝時に歯を食いしばって寝ており神経混線の視点からは問題だが、長年身に着いた癖であり本人が寝ている間の事で直せるレベルの話ではなさそうだ。

 

<45回目>当院初診時から5か月が経過。 顔面神経麻痺発症から6か月が経過

顔面神経麻痺評価点数26点。見た目は顔面神経麻痺とはわかりにくくなっているが、瞼を中心にして周囲の筋肉から瞼が圧縮されて小さくなるようだとの訴えがこのところ続いている。左右の目を比較すると確かにその傾向がある。鍼灸治療をする上で一時的に表情筋の短縮を遅らせる、つまり後遺症の進行を遅らせる手段としてボトックスという手があるのではと考えた。もちろんボトックスは医師が判断して行うものである。ボトックスの効果は3か月程度と限りがある。ボトックスを顔面神経麻痺に使用するケースは一般的には顔面神経麻痺後遺症が固定されてから打つことが多いように思う。しかし顔面神経麻痺の進行時に部分的なボトックスを行い、顔面神経の伸長と後遺症による表情筋の短縮スピードつまり後遺症の進行を遅らせて、その間に鍼灸治療を行えばボトックの効果が切れても完全に元に戻ることは無いのではないかと考えた。そこで患者から担当医にボトックスの使用の希望を伝えて医師の判断に委ねてみた。

 

<59回目>当院初診時から7か月が経過。 顔面神経麻痺発症から8か月が経過

病院の脳神経内科にて患側の右目周囲に6か所、ほうれい線に1か所、首の広頚筋部に5か所のボトックス注射を2日前におこなった。

ボトックス2日後の顔面神経麻痺評価点数20点。前回の評価テストが26点なので6点低くなっている。

顔面神経麻痺改善の目安となる良い意味での額の皺が、ボトックス後は部分的に消えている。また瞼の下に歳をとったような2重の皺が出ていることを気にされている。

 

<62回目>ボトックス注射から2週間後

ボトックス使用の目的であった患側の瞼の大きさ左右差が改善され目立たなくなっている。瞼が周囲から縮まる感じは予想通り改善されている。また気にされていたボトックス後に出た瞼の下の歳をとったような2重の皺も目立たなくなってきた。口の中の硬さと食べにくさの訴えがあるが、これはボトックス前から訴えていたものである。顔面神経麻痺での食べにくさの訴えは麻痺しているので当たり前に出現する。しかし普通は時間経過に合わせて改善されてくるものだ。この場合はその訴えはずっと続く訴えであり珍しい例である。

 

<80回>当院初診時から11か月が経過。 顔面神経麻痺発症から1年が経過

顔面神経麻痺評価点数26点。点数的には変化が見られないが落ち着いた表情に見える。ボトックス注射から3か月経過してボトックスの効果が切れて目周囲からの圧迫感が出てきている。ボトックスの効力が切れると繰り返して注射を打つことも多いが、ご本人は「ボトックスを打った顔は生気が欠けた表情になり打ちたくない」とのお話をされておりボトックスは1度のみで止めることとした。今回ボトックスを実施した効果としては、見た目の大きさの違いによる左右差拡大の進行は一定防げたのではないかと思われる。

特筆する残症状および改善症状として、口角から頬にかけての麻痺が残っていて、イーっとした口が広がらない。治療した後は食べやすいが元に戻る。やはり食べにくい。うどんは少しすすれる。コップで飲める。口を動かすと目が小さくなる共同運動がある。といった状態。

 

<103回>当院初診時から1年1か月が経過。 顔面神経麻痺発症から1年2か月が経過

顔面神経麻痺評価点数26点 点数的には変化は見られない。見た目はわからないほどまで改善しており表情も自然に見える。ただ食べにくさの訴えと、口を尖らせると目が細くなるといった共同運動など、顔面神経損傷による後遺症の改善は難しくやはり残ってしまっている。今後は月に1回程度の治療間隔で経過をみることとした。

 

<考察>

この症例は、帯状疱疹ヘルペスによる右不全ハント症候群という診断名の通り、治癒するのはなかなか難しいよと言った状態を受けて当院での治療が始まった。さらにマイナス要因として眩暈とフラツキを伴っているので、ウィルスが平衡覚器にも影響を及ぼしており予後への悪影響が考えられた。

顔面神経麻痺評価点数的には顔面神経麻痺発症後1か月で8点で重度の点数である。しかしここではよく見られる点数でもある、予後的には前二行の条件は難しさの指標を表していた。また就寝時に毎日食いしばりがあり共同運動助長条件も伴った。

加えてこの症例では当院での治療と並行してボトックスを1回のみだが試みた。多少の後遺症進行を遅らせる効果はあったように思うが、当院での治療に顕著な後押しとはいかなかった。ボトックスを打つタイミングにも問題があったように思える。またボトックスをすると生気に欠けた表情になるとの指摘も課題となった。

 

 

 

 

 

 

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