発熱後に嗅いと味が全くわからなくなった嗅覚障害症例　４２才　女性

４０日ほど前の夜中に倦怠感を覚え、翌日発熱（３８．５度）した為に内科を受診した。インフルエンザでは無かった。その翌日には熱も３７度まで下がったが、喉の痛みと、かすれ声が５日間続いた。この頃料理の味付け中に味がせず、匂いがわからないことに気が付いた。すぐに耳鼻科を受診して、クラリシッド、ムコダイン、メコバラミン、プレドニン、当帰芍薬散、などステロイドや感染症薬、ビタミン剤や婦人科の漢方薬などの服薬をおこなってきた。現在味覚は大分戻ってきたが匂いが全くわからない。とのことで不安になり当院を受信された。

■診察
[ 初診 ]
当院で匂いの検査をするとグレープフルーツの匂いが「空気ではないがグレープフルーツの
匂いではない匂いがほんの少しする」。しかしベルガモット、ラベンダー、ペパーミント、調合した香りのいずれも全くわからなかった。治療は鍼灸治療と遠絡療法を併用した。お仕事の都合上週１回間隔の治療を目標とした。

[ ２回目 ]
「前回治療後家に帰って３時間ほどぐっすり眠り、とてもすっきりした気分になった」とのお話があった。柔軟剤の匂いが鼻を近づけると少しわかるようになった。

[ ３回目 ]
当院初診から１か月経過。記憶しているシャンプーの匂いとは違うがシャンプーの匂いがわかった。当院の嗅覚検査でグレープフルーツ、ベルガモット、ラベンダーが「空気ではない」とわかる。

[ ５回目 ]
バスクリン、しょうゆ、インスタントコーヒー、車中のアイスコーヒー、の匂いがわかった。
ニンニクはわからない。
[ １１回目]
当院初診から３か月半経過。魚を焼く匂い、糠漬けの糠の匂い、ウナギのかば焼きの匂いがわかった。当院の匂い検査ではベルガモット（++）、グレープフルーツ（++）、ラベンダー（++）、ペパーミント（+）いずれも格段の進歩でわかる。ただし生魚（-）、生ごみ（-）、便（-）、汗（-）の匂いはわからない。
[ ２２回目]
当院初診から６か月経過。口臭、おなら、生ゴミなど臭い匂いがわかる。柔軟剤の匂いの違い。玉ねぎや果物の匂い、ダシの匂いがわかる。コーヒーもわかるがやや炭っぽい匂いがする。カレールーの匂いがわかった。汗のにおいがわかった。ドリップコーヒーの匂いがわかった。ベルガモットとグレープフルーツの匂いの違いがよくわかる。

[ ３２回目]
嗅覚障害発症から１０か月。当院初診から９か月が経過した。当院で使用する匂い検査用のアロマは完全に卒業した。日常生活上の食べ物や体臭などの臭いもまったく困らないまでに回復した。ただしコーヒーは記憶しているものではなく、炭の匂いがやや混ざって感じる。　しかし日常生活には全く支障のないまでに回復しており略治とした。
■考察
嗅覚障害治療では、毎回治療初めに、前回の治療から今日までの間の匂いに関することを詳しく聞きとりをおこなう。この作業を行うと、回復過程で匂いやすい順番と傾向がわかってくる。もちろん個人差はあるものの、これら長期にわたる臨床データは、客観的で貴重な資料であり、今後の臨床に大きな指針になっている。しいてはその事が当院に来院される嗅覚障害患者様の回復に繋がって還元されることになると思っている。