自分は全く匂わないと錯覚していた嗅覚障害　５７才　女性

アレルギー性鼻炎でしばしば耳鼻科を受診していたが、４年ほど前から徐々に嗅覚障害になってきた。耳鼻科で点鼻薬等の治療を受けてきたが、耳鼻科の医師から「もうこれ以上は治らないでしょう」と言われてしまった。全く匂わない状態を０で、正常な状態を１０として現在のVAS値を言葉で表してもらうと、０・５とほとんど匂っていない数値であった。そこで問診していくと犬のオシッコの匂いや制汗剤の匂いがわかったり解らなかったりする。柔軟剤の匂いが人とすれ違った時にわかることがある。インスタントコーヒーの匂いがわかると言ったお話である。当院での匂いの検査でもベルガモットとグレープフルーツの匂いの違いがわかり、ラベンダー（+）、ペパーミント（+）であった。ご本人は０．５レベルと思っておられるが、客観的にみるとかなりわかっているようだ。少なくともVAS値が０．５ではない。ご本人が匂わないと感じている値と考えるべきだろう。

■診察
[ 初診 ]
治療は鍼灸治療と遠絡療法を併用した。医師から治らないと言われ、自身はほとんど匂わないと思って諦めていただけに、当院で現在かなり匂いがわかっていることと、良くなる可能性が大きいことを説明すると、驚きと喜びを言葉にされた。
[ ２回目 ]
インスタントコーヒーの匂いが２メートルほど離れたところでわかった。親子丼のにおいがわからない。雨の降り始めの土埃の匂いがわからない。ペパーミントがスッとしない。ベルガモットは自然ないい匂いである。

[ ３回目 ]
ミカンの花の匂いがわかった。学校給食の匂いがわかった。グレープフルーツ（++）　ラベンダー（++）共によくわかる。アロマエッセンスをを混合した難しいと思える匂いが少しわかった。

[ ４回目 ]
ラッキョウの古漬けの匂いがわかった。カレーと天ぷらの匂いがわかった。
[ ５回目]
犬の糞の匂いがわかった。草を刈った後の匂い。カツオぶしの匂いがわかった。生姜をすった匂いが良くわかった。当院の匂い検査で使うベルガモットがとても好きな匂いである。
[ ６回目]
カレールーの匂いがわかった。汗のにおいがわかった。ドリップコーヒーの匂いがわかった。ベルガモットとグレープフルーツの匂いの違いがよくわかる。

[ ７回目]　初診から５７日経過
ベルガモット、グレープフルーツ、ラベンダー、ペパーミント、混合したアロマ液、いずれも（++）で良く分かる。ゴミの匂いもわかる。　日常生活には支障が全くないということで略治とした。
■考察
この症例は嗅覚障害になって４年が経過する症例である。この間嗅覚の治療をおこなっていた医師から「これ以上は良くならない」と言われたが、実際には２か月足らずの当院での治療で治ってしまった。一般的には発症から４年経っても嗅覚障害があれば回復は困難と考えられるが、自身の嗅覚障害の程度を重度と思い込んでいたことと、この間にこじらすような治療をしていなかったことが、回復の近道になったようだ。