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顔面神経麻痺発症以後4ヶ月間に、ステロイド治療、星状神経節ブロック、電気治療、整体治療、鍼灸治療と色々な治療を受けて来院された症例 48歳 女性

顔面神経麻痺発症前日に左耳が痛くなり、その後頬の辺りが熱く感じるようになり、翌朝には顔の表情が動かせなくなっていた。すぐに近医の耳鼻科を受診して、発疹は無かったがハント症候群による顔面神経麻痺と診断された。初めの2週間は抗ウィルス薬の服薬のみで、その後40日間はステロイドの服薬のみの治療をおこなった。同時に腰痛で日頃から通っている整形外科で顔の電気治療をおこなっていた。耳鼻科でのステロイド服薬を終えて「あとは自然に治ってくる」と説明され、一旦耳鼻科での治療は終わった。しかし顔面神経麻痺による顔の歪みはまったく改善されていなっかった。そこでペインクリニックを受診し星状神経節ブロック注射を受けることにした。初めの1ヶ月間は週2回の間隔でおこない、その後は現在まで週1回の間隔でブロック注射を受けている。またこの間整体治療を5回ほど受け、鍼灸治療はこの2ヶ月ほど通っている。しかし顔の歪みの改善はほとんど見られ無かったため、当院をネットで見て受診された。

■診察
[ 1回目 ]
耳鼻科他で顔面神経麻痺評価スコアを測っていないとのことであった。当院での顔面神経麻痺評価スコアは10点。味覚異常は無い。目を閉じると口角が挙がる。すでに発症から4ヶ月が経過しており、星状神経節ブロックをはじめ色々な治療を受け、さらに自己流の顔の表情筋運動や顔面マッサージを続けてきている。その為共同運動や顔面表情筋の拘縮などの後遺症が今後強く出ないかが懸念された。当院初診時点で共同運動はすでに現れている。治療は鍼灸治療と遠絡療法を併用することとし、週2回の治療をおこなうよう伝えた。また治療後は顔面神経麻痺による後遺症の説明と諸注意点。また伸張マッサージのパンフを渡して、実際にやり方を説明した。。

[ 9回目]
顔面神経麻痺評価スコア12点。口元の歪みがかなり改善された。 目の開閉は患側が2ミリ程度開くが、起床時に目は乾いておらず、完全に目を閉じて寝ている。欠伸をすると目を閉じてしまう。フィードバック法を指導。

[ 17回目]
顔面神経麻痺評価スコア14点。すれ違う程度では顔面神経麻痺とはわからない状態である。しかし顔面神経麻痺の後遺症である顔の表情筋の健側への歪みが出てきている。

[ 25回目]
顔面神経麻痺発症から7ヶ月当が経過。日常生活では解らないが、相対して見ると唇全体が患側に引っ張られている。また下唇が患側斜め下へやや下がっている。いわゆる顔面表情筋の短縮という顔面神経麻痺後遺症によるものである。顔面神経麻痺評価法では16点。
[ 40回目]
顔面神経麻痺発症から9ヶ月が経過し、食べたり話したりすると目の周囲に力が入ると言った後遺症が出てきている。また同時に目が細くなる眼列狭小もやや見られる。評価法では18点

[ 52回目]
発症以来11ヶ月が経過。顔面神経麻痺評価法では22点。安静時には顔面神経麻痺があることはほとんど解らない。しかし観察すると顔の下半分は患側にやや引っ張られ、下唇は患側斜め下に下がり、頬骨が出っ張ったように顔の左右差は見られる。食べ物の口内の偏りなどはなく普通に食べられる。頬や口角の強張りがある。

[ 74回目]
顔面神経麻痺発症から1年2ヶ月が経過した。顔面神経麻痺評価スコアは26点。普段生活する上で顔面神経麻痺があることは解らない。しかし顔の歪み。し目のウィンク動作で口角がピクピクと動き、口を動かすと目の周囲に強張り感を感じる。など共同運動や筋短縮などの後遺症はでている。後遺症の指導としてフィードバック法をおこなってきた。
一応顔面神経麻痺治療はこの時点で略治とした。

私は顔面神経麻痺治療の治療期間を発症から1年2ヶ月に設定している。もちろん人間には大きな自然治癒力が備わっていて、さらに時間の経過で改善されていくが、人為的な治療の効果期間として私自身が設定したものである。それ以上だらだらと治療をして患者様の費用や時間の負担をかけたくない気持ちがある。もちろん顔面神経麻痺に罹患して2年以上経過して初めて来院にされるケースも有り、あくまで治療期間の目安である。

■考察

顔面神経麻痺の中等度以上のタイプでは後遺症は避けられない。5ヶ月を過ぎたあたりから筋の短縮や共同運動が出てくる。しかしあらかじめ後遺症を予想し、初期から予防をすればかなりの部分で後遺症の程度を軽く抑えられると考えている。
ただし当院に顔面神経麻痺発症直後から治療に来られる方ばかりではない。この症例のように顔面神経麻痺発症後4ヶ月を経て来院されているケースなどでは、当院に来院された時点で後遺症状がすでに出ているケースもある。
来院されるまでの間に様々な治療を受けておられるが、その中には顔面神経麻痺の重度判定も後遺症の事も考えることなく治療をおこなっている所もある。「治る、治ると先生から簡単に言われた」と言ったケースが顔面神経麻痺中等度以上の方の場合にもよく見られ後遺症で苦しまれているケースである。
明らかに後遺症を考えて治療をしないといけない重度のケースでも、強い顔のマッサージや顔への闇雲な電気治療をおこなったり、顔面神経麻痺の軽度の人と同じような表情筋の運動を指導していたりしている。
あえて異論が出ると思われるが、星状神経節ブロック注射は血流改善を促し自然治癒力を高めるとしておこなわれているが、顔面神経麻痺でも中等度以上の後遺症が出るケースでは5ヶ月7ヶ月9ヶ月と経てくると、自然治癒力があきらかに阻害されているのではと思われることを感じている。私の症例でたまたま一致しているのか、しかしデータでは100パーセントである。
あるたくさんの医師の集まるセミナーに参加したが、麻酔科の専門医さえ、顔面神経麻痺のブロック治療について、「麻痺に麻痺させてどうする」と言った講義をお聞きした。
予てから疑問に思っていることであり、この問題も含めて、しかるべき機関で後遺症患者に対しての科学的な研究を望むものである。

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